前回は、勤怠データと評価データがつながらないことで起きる設計ミスを取り上げました。今回はその一段上の話として、人事システムそのものが社内で乱立してしまい、データ活用がそもそも難しくなっている会社のパターンを整理します。
「勤怠管理はA社のシステム、給与計算はB社、採用管理はC社、評価制度はD社のシステムを使っている」というように、目的別に最適なシステムを個別導入してきた結果、気づけば5つも6つもの人事システムが社内に存在している、という会社は珍しくありません。
なぜ人事システムは乱立しやすいのか
人事システムが乱立する背景には、各システムが導入された時期や担当部署が異なるという事情があります。採用管理システムは採用チームが、勤怠システムは労務チームが、評価システムは人事企画チームが、それぞれ自分たちの業務に最適なツールを個別に選定してきた結果、全社で統一されたシステム基盤という発想が後回しになります。
それぞれの選定自体は、当時の業務要件に対しては合理的な判断だったケースが多く、誰か一人の判断ミスというよりは、部署ごとの最適化が積み重なった結果として乱立が起きている、というのが実情に近い見方です。
システム乱立がデータ活用を妨げる2つの典型パターン
人事システムが乱立した状態でデータ活用を試みると、実務では大きく2つのパターンで行き詰まります。
パターン1: 同じ社員データを複数システムに別々に入力し直しているケース
採用管理システムで管理していた候補者情報を、内定後に勤怠システムや給与システムへ手作業で再入力する、というケースです。システム間でデータが連携されていないため、入社時の基本情報を3つ、4つのシステムにそれぞれ手入力する手間が発生し、入力ミスや表記のズレ(部署名の略称が違う、雇用形態の区分が違う等)が積み重なっていきます。
パターン2: 全社の人事データを分析しようとして、どこにも揃ったデータがないと気づくケース
経営層から「離職率と評価の関係を分析してほしい」といった依頼が来た際に、評価データは評価システム、退職データは勤怠・労務システム、それぞれ別の場所にあり、社員IDの形式も統一されていないため、分析の前段階としてデータを手作業で突き合わせる作業に多くの時間を費やすことになります。分析そのものよりも、データを集める作業の方が時間がかかるという状態です。
「とりあえず連携ツールを入れる」では解決しない理由
複数システム間でデータをやり取りするための連携ツールやAPI連携を導入すれば解決する、と考えがちですが、連携の前提となるデータの定義(社員ID、部署コード、雇用形態の区分など)がシステムごとに異なっていると、連携ツールを入れても食い違いが残ったままになります。
本質的な課題は、どのシステムが「正」のデータを持つのか(マスタデータの所在)を決めずに個別最適でシステムを選んできたことにあり、これを後から整理し直すには、技術的な連携作業以上に、どの部署がどのデータの管理責任を持つかという業務上の合意形成が必要になります。
会社側にとっての人事システム乱立のリスク
人事システムが乱立した状態を放置すると、会社側には次のようなリスクが生じます。
- 同じ情報を複数システムに入力する手間が発生し、人事担当者の業務負荷が増え続ける
- システム間でデータの表記がずれることで、集計や分析の精度が下がる
- 経営判断に必要なデータをすぐに揃えられず、意思決定のスピードが落ちる
- システムごとに個別の保守費用・契約更新が発生し、結果としてコストが膨らむ
システムを整理する前に確認しておきたいポイント
人事システムの統合や整理に着手する前に、少なくとも次の点を確認しておくとよいです。
- 現在使っている人事関連システムを、すべて棚卸しできているか
- 各システムで管理しているデータのうち、どれが「正」のデータか(マスタの所在)が決まっているか
- 社員ID・部署コードなど、システム間で共通化すべき項目が整理されているか
- 新しいシステムを導入する際、既存システムとのデータ連携を前提に選定しているか
従業員・人事それぞれができること
従業員側から考えられるアクション
- 自分が入力している人事データについて、他システムと項目の表記(部署名・雇用形態など)が揃っているか確認する
- 同じ情報を複数システムに手入力している場合、その手間と入力ミスのリスクを人事に共有する
人事側から考えられること
- 現在使っている人事関連システムを棚卸しし、どのデータが「正」のマスタかを決める
- 新しいシステムを導入する際は、既存システムとのデータ連携を前提に選定する
さいごに
人事システムの乱立は、一つひとつの導入判断が間違っていたわけではなく、部署ごとの最適化が積み重なった結果として生じることが多い問題です。すべてを一度に統合するのは難しくても、まずはどのデータが「正」なのかを決めることが、データ活用の出発点になります。
次回は、データ基盤の話から少し離れて、中途入社者の受け入れで見落とされがちなチェック項目について整理します。
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この記事は実務上の一般的な傾向や論点を整理したものであり、個別の法的判断ではありません。具体的な対応については社会保険労務士・弁護士等の専門家にご確認ください。

