前回は、中途採用の「カルチャーフィット」という言葉が選考基準を属人化させてしまう問題を取り上げました。今回は人事データの話に戻り、勤怠データと評価データがうまく連携できていない会社で、何が起きているのかを整理します。
「残業が多い社員ほど評価が低い」「特定の部署だけ離職前に欠勤が増える」といった傾向は、勤怠データと評価データを並べて見れば気づけるはずのものです。しかし実際には、この2つのデータが別々のシステムに入っていて、突き合わせる手段がない会社が少なくありません。
なぜ勤怠データと評価データは別々に管理されがちなのか
勤怠管理は労務・総務部門が、評価制度の運用は人事企画部門が担当することが多く、導入のタイミングも目的も異なるシステムが個別に選定されてきた、というのがよくある経緯です。勤怠システムは打刻と残業時間の集計、給与システムとの連携を主目的に選ばれ、評価システムは目標管理や評価シートの運用を主目的に選ばれます。
それぞれの目的に対しては十分に機能していても、社員IDの形式が異なっていたり、部署コードの粒度が違っていたりすると、2つのデータを同じ社員・同じ期間で結びつけることが技術的に難しくなります。
データが連携できないことで起きる2つの典型パターン
勤怠データと評価データがつながっていないと、実務では大きく2つのパターンで問題が表面化します。
パターン1: 高評価だが慢性的に長時間労働している社員に気づけないケース
評価シート上は高評価が続いている社員が、実際には毎月60時間近い残業をして成果を出している、というケースです。評価データだけを見ている評価者やマネージャーには、その背景にある勤怠の状況が見えません。結果として、長時間労働によって成果を出している状態が「優秀な働き方」として評価され続け、本人の負荷が見過ごされたまま固定化してしまいます。
パターン2: 離職前のサインを評価データだけでは見抜けないケース
退職する社員の多くに、退職の数ヶ月前から遅刻や欠勤、有給消化のパターン変化といった勤怠面の変化が見られることがあります。しかし評価データと勤怠データが別管理だと、評価面談では「特に問題なし」とされていた社員が、突然退職を申し出るという形で問題が表面化します。事後的に振り返れば勤怠データに兆候があったとしても、評価のタイミングではその情報が共有されていません。
「連携すればいい」では済まない設計上の課題
勤怠データと評価データを連携させるという話は単純に聞こえますが、実際にはいくつかの設計判断が必要になります。社員IDや部署コードのマスタをどちらのシステムに合わせて統一するか、データの更新頻度(日次か月次か)をどう揃えるか、誰がどの粒度でこの統合データを見られるようにするか、といった点を決めずにシステム連携だけを進めると、データはつながってもうまく活用されない状態になります。
特に、評価者個人が部下の勤怠データを細かく見られる状態を作ってしまうと、評価とは別の監視的な使われ方をしてしまう懸念もあり、閲覧権限の設計は技術連携と同じくらい重要な論点です。
会社側にとってのデータ連携不備のリスク
勤怠データと評価データがつながらない状態を放置すると、会社側には次のようなリスクが生じます。
- 長時間労働の実態に気づかず、結果的に労務管理上の問題(健康障害・労災)を見逃す
- 離職の兆候を早期に把握できず、引き止めや異動などの対応機会を失う
- 評価が勤怠の実態を反映していないことで、不公平感や評価への不信感が広がる
- 場当たり的にデータを集めて分析しようとするたびに、人事担当者の手作業による突き合わせコストが発生する
データ連携を検討する前に確認しておきたいポイント
勤怠データと評価データの連携を進める前に、少なくとも次の点を確認しておくとよいです。
- 両システムで社員を一意に識別できるキー(社員ID等)が統一されているか
- 部署・組織コードの粒度や更新タイミングが揃っているか
- 統合したデータを誰が、どの目的で、どの粒度まで見られるようにするかが決まっているか
- 連携の目的が「異常の早期発見」なのか「評価の妥当性検証」なのか、用途を明確にしているか
従業員・人事それぞれができること
従業員側から考えられるアクション
- 高評価をつけている部下についても、勤怠データ(残業時間など)を併せて確認し、長時間労働で成果を出していないか点検する
- 部下の遅刻・欠勤・有給消化のパターンに変化があれば、評価面談を待たずに声をかける
人事側から考えられること
- 勤怠データと評価データを結びつける際の閲覧権限を設計し、監視目的での利用にならないようにする
- 統合データを誰がどの粒度で見られるかを、目的(異常の早期発見か評価の妥当性検証か)に応じて整理する
さいごに
勤怠データと評価データは、別々に見ている限りはどちらも「正常」に見えてしまうことがあります。2つを並べて初めて見える異常やリスクがあることを踏まえ、システム連携の前に、何を発見したいのか、誰がどう見るのかを整理しておくことが、形だけの連携で終わらせないための出発点になります。
次回はその一段上の話として、人事システムそのものが社内で乱立し、データ活用がそもそも難しくなっている会社のパターンを整理します。
この記事は実務上の一般的な傾向や論点を整理したものであり、個別の法的判断ではありません。具体的な対応については社会保険労務士・弁護士等の専門家にご確認ください。


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