前回は内定者フォローを怠ったことで内定辞退が増える会社のパターンについて整理しましたが、今回はAI活用・データ設計の領域に戻り、従業員サーベイの運用について取り上げます。エンゲージメント調査や満足度調査を定期的に実施する会社は増えていますが、結果を集計して「見るだけ」で終わり、具体的な改善行動につながらないケースが多く見られます。
サーベイが「実施すること」自体が目的化する理由
従業員サーベイの導入時には改善のための仕組みとして期待されていたはずのものが、運用が続くうちに実施すること自体が目的になってしまうことがあります。
- 集計結果がダッシュボードに表示されるだけで、誰が何をするのかが決まっていない
- 経営層への報告は行われるが、現場の管理職にはスコアの共有だけで終わる
- スコアが低かった項目について、原因を深掘りするヒアリングが行われない
- 前回調査からの変化が「数字が上がった・下がった」という結果報告にとどまる
サーベイの実施自体には一定の労力がかかるため、それを完了した時点で「やるべきことは終えた」という感覚が生まれやすくなります。
ある会社で実際にあったケース
ある会社では、四半期ごとに全社員を対象としたエンゲージメントサーベイを実施していました。結果は人事企画チームが集計し、経営会議で部署別のスコアが報告される運用が続いていました。
ある部署では、複数回にわたって「上司とのコミュニケーション」に関する項目のスコアが低い状態が続いていましたが、経営会議では「この部署は数値が低い」という事実が共有されるだけで、その部署の管理職に対して具体的な改善のための支援は行われませんでした。結果として、低いスコアが何期も継続し、最終的にその部署から複数名の退職者が出た際に、退職理由のヒアリングで「サーベイで何度も同じことを書いていたのに、何も変わらなかった」という声が聞かれました。社員にとっては、サーベイに回答すること自体が「意味のない作業」として認識されるようになっていました。
このケースで欠けていたのは、サーベイの集計や報告の仕組みではなく、低いスコアが出た部署に対して原因を深掘りし、改善を支援するプロセスでした。
「見るだけ」で終わる3つの構造的な理由
① スコアを見た後の対応プロセスが定義されていない
サーベイの設計時には質問項目や集計方法に多くの労力が割かれますが、結果が出た後にどう対応するかのプロセスが同じレベルで設計されていないことが多いです。
② 改善の責任者が明確になっていない
スコアが低い部署があった場合、誰がその改善を主導するのかが決まっていないと、結果は共有されるだけで終わってしまいます。
③ 同じ課題が繰り返し指摘されても優先度が上がらない
一度のスコア低下では大きな問題として扱われなくても、複数回にわたって同じ課題が指摘されている場合に、優先度を上げる仕組みがないと、放置され続けてしまいます。
会社側にとってのリスク
サーベイ結果が活用されないまま放置されることは、調査自体への信頼を損なうだけでなく、より大きなリスクにつながります。
- 社員がサーベイへの回答を「意味のない作業」と感じ、回答率や回答の質が下がっていく
- 同じ課題が繰り返し指摘されているにもかかわらず対応されず、退職などの形で問題が表面化する
- サーベイにかけているコストや労力が、改善という成果に結びつかない
- 「言っても変わらない」という認識が広がり、他の声を上げる機会(1on1や相談窓口など)への信頼も下がる
特に、同じ課題が複数回のサーベイで指摘されているにもかかわらず対応されないケースは、社員の不満が静かに蓄積し、退職という形で突発的に表面化しやすい点に注意が必要です。
「見るだけ」を防ぐためにできること
- サーベイ結果が出た後の対応プロセス(誰が、いつまでに、何をするか)を事前に設計しておく
- スコアが低い部署について、原因を深掘りするヒアリングを実施する仕組みを作る
- 同じ課題が複数回指摘された場合に、優先度を自動的に上げるルールを設ける
- 社員に対して、前回のサーベイ結果を受けてどのような対応を行ったかを定期的に共有する
いずれもサーベイの設計自体を変える必要はなく、結果を受け取った後のプロセスを整備することで改善が見込めます。
従業員・人事それぞれができること
従業員側から考えられるアクション
- サーベイに回答する際は、低いスコアをつけるだけでなく、可能な範囲で具体的な状況も記述する
- 自分の部署のスコアが低い項目について、結果を待つだけでなく上司に改善の意向を伝える
人事側から考えられること
- サーベイ結果が出た後の対応プロセス(誰が、いつまでに、何をするか)を事前に設計しておく
- 同じ課題が複数回指摘された場合に、優先度を自動的に上げるルールを設ける
さいごに
従業員サーベイは、実施すること自体に価値があるのではなく、結果を受けて何を変えるかにこそ本来の価値があります。スコアを見るだけで終わらせず、原因の深掘りと改善のプロセスまでを運用に組み込むことが、サーベイを意味のある仕組みとして機能させるための土台になります。
次回は、休職・復職対応フローを整備する際に必要な確認項目リストについて整理する予定です。
この記事は実務上の一般的な傾向や論点を整理したものであり、個別の法的判断ではありません。具体的な対応については社会保険労務士・弁護士等の専門家にご確認ください。


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