前回は人事評価の結果が給与にどう反映されるかが社員に伝わっていない会社の課題について整理しましたが、今回は採用の現場に話を戻します。リモート面接が一般化したことで、選考プロセスは効率化された一方、面接官が候補者の人物像を十分に把握できないまま選考が進んでしまう会社が増えています。
リモート面接で「見えにくくなったもの」
対面面接からリモート面接への移行は、移動コストの削減や候補者の参加しやすさなど多くのメリットをもたらしましたが、同時に失われた情報も少なくありません。
- 候補者の表情や反応の微妙な変化が画面越しでは読み取りにくい
- オフィスに来てもらう移動時間中の雑談から得られる人柄の情報がなくなる
- 面接前後の待合室や受付での自然な様子を観察する機会が失われる
- 通信環境やカメラの映り方によって、第一印象の解像度が下がる
これらの情報は選考基準として明文化されていないことが多いものの、実際には合否判断に影響を与えていた要素でもあります。
ある会社で実際にあったケース
ある会社では、採用効率化のため最終面接まで全てリモートで実施する方針に切り替えました。ある候補者は、画面越しの面接では回答も的確で、コミュニケーションに大きな問題は見られず、内定が出されました。
しかし入社後、実際の対面でのやり取りでは、声の大きさや話すスピードが周囲のメンバーにとってかなり強い印象を与えるものであることが分かり、配属チーム内でコミュニケーション上の摩擦が生じました。面接を担当した社員は「画面越しでは気にならなかった」と振り返り、対面であれば選考の早い段階で気づけた可能性のある特性が、リモート面接という形式によって見落とされていたことが明らかになりました。
このケースで欠けていたのは、面接担当者個人の判断力ではなく、リモート面接で得られる情報の限界を踏まえた選考プロセスの設計、特に対面での接点を選考のどこかに組み込む仕組みでした。
人物像が見えにくくなる3つの構造的な理由
① 選考基準がオンラインで評価しやすい項目に偏る
リモート面接では、論理的な回答内容や話す内容の構成など、画面越しでも評価しやすい項目に判断が偏りやすく、非言語的な情報が選考基準から外れやすくなります。
② 面接時間が対面より圧縮される傾向がある
リモート面接は前後の移動時間がない分、面接そのものの時間も短く設定されがちで、候補者をじっくり観察する時間が確保されにくくなります。
③ 複数の面接官の「気づき」を共有する場が設けられていない
リモート面接では面接官同士が同じ場にいないことが多く、面接後に「気になった点」を口頭で共有する機会が自然に失われます。
会社側にとってのリスク
人物像を十分に把握できないまま採用が進むことは、入社後の様々な場面でリスクとして表面化します。
- 配属後のチーム内コミュニケーションで想定外の摩擦が生じる
- 早期離職やミスマッチの原因が、選考時には見えていなかった特性に起因する
- 面接官が「リモートだから仕方ない」と選考の質の低下を許容してしまう
- 対面であれば候補者側も会社の雰囲気を感じ取れたはずの情報が伝わらず、入社後のギャップにつながる
特に、配属先のチームとの相性に関わる情報が選考時に共有されていないと、入社後の早い段階でミスマッチが顕在化しやすくなります。
人物像の把握を補うためにできること
- 最終選考の前後など、選考プロセスのどこかに対面での接点を一度組み込む
- リモート面接後に面接官同士が気づいた点を共有する短いミーティングを設ける
- リモート面接でも見極めやすい評価項目とそうでない項目を整理し、評価シートに明記する
- 配属予定チームのメンバーとの顔合わせを、内定前後のタイミングで設定する
いずれも選考プロセス全体を大きく変える必要はなく、既存の流れに小さな接点を追加することで実現できる取り組みです。
従業員・人事それぞれができること
従業員側から考えられるアクション
- リモート面接で気になった点があれば、その場で他の面接官と簡単に共有し、記憶が薄れる前に記録する
- 候補者として面接を受ける側も、対面の機会があれば積極的に参加し、双方の理解を深める
人事側から考えられること
- 選考プロセスのどこかに対面での接点を一度組み込む
- リモート面接でも見極めやすい評価項目とそうでない項目を整理し、評価シートに明記する
さいごに
リモート面接の効率性は採用活動にとって大きな利点ですが、その利便性の裏側で、人物像の把握が浅くなっていないかを意識的に点検する必要があります。対面でなければ得られない情報があることを前提に、選考プロセスを設計し直すことが、採用後のミスマッチを減らす土台になります。
次回は、退職予兆スコアを導入したのに現場が信用しない会社に共通する構造について整理する予定です。
この記事は実務上の一般的な傾向や論点を整理したものであり、個別の法的判断ではありません。具体的な対応については社会保険労務士・弁護士等の専門家にご確認ください。


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