「サービス残業はうちにはない」と言い切る管理職が実は一番危ない理由

サービス残業はないと言い切る管理職に潜む3つの思い込みの理由を示すアイキャッチ画像 労務の裏側

前回は賃金規程の見直しチェックリストを作る際に見落とされがちな項目について整理しましたが、今回は労務管理の現場でよく聞かれる発言を取り上げます。「自分のチームにサービス残業はない」と自信を持って言い切る管理職ほど、実際には未払い残業のリスクを抱えているケースが少なくありません。

「ない」と言い切れる背景にあるもの

管理職がサービス残業の存在を否定するとき、その根拠は多くの場合、客観的なデータではなく主観的な印象に基づいています。

  • 部下が残業申請をしてこない=残業していないと解釈してしまう
  • 自分の目の届く時間帯の様子だけで、チーム全体の状況を判断している
  • 部下が「大丈夫です」と答えることを、実態の確認の代わりにしてしまう
  • 勤怠データと実際の業務量を突き合わせて確認する習慣がない

これらはいずれも、管理職が悪意を持って実態を隠しているわけではなく、確認の仕組みが整っていないために生じる思い込みです。

ある会社で実際にあったケース

ある会社の管理職は、「うちのチームは定時で帰る文化が根付いている」と社内でも評判で、本人もそのことを誇りにしていました。実際、勤怠システム上の残業申請はほとんど記録されていませんでした。

しかし、ある部下が体調を崩して休職した際の聞き取りで、実際には定時後も自席で資料作成などの業務を続けており、それを「個人的な勉強」として扱い、残業申請をしていなかったことが分かりました。本人としては「申請するほどのことではない」という認識でしたが、実態としては会社の業務に関連する作業であり、労働時間として扱われるべきものでした。管理職自身は部下がそうした働き方をしていることに全く気づいておらず、「サービス残業はない」という認識は、部下の自己判断による未申請の上に成り立っていたものでした。

このケースで欠けていたのは、管理職の観察力ではなく、勤怠申請の有無だけに頼らない、実態を確認する仕組みでした。

「ない」という思い込みが生まれる3つの構造的な理由

① 残業の有無を勤怠申請の数字だけで判断している

申請がなければ残業がないと考えてしまうと、申請されていない実態の残業を把握する手段がなくなります。

② 部下が「申請しづらい空気」を感じている可能性が見落とされている

定時退社の文化が強調されるほど、部下は残業を申請しにくくなり、結果として実態が見えなくなっていく場合があります。

③ 業務量と人員配置のバランスを定期的に検証していない

チームの業務量が増えているにもかかわらず、人員配置や業務分担の見直しが行われていないと、表に出ない残業が発生しやすくなります。

会社側にとってのリスク

サービス残業の存在に気づかないまま運用が続くことは、後になって大きな問題として表面化するリスクをはらんでいます。

  • 未払い残業代の問題が、退職や労働基準監督署への相談を通じて発覚する
  • 発覚した時点で、遡って長期間分の未払い分を精算する必要が生じる
  • 「定時で帰る文化」という評判自体が、実態と異なっていたことで社内の信頼を損なう
  • 管理職本人が、知らないうちに労務リスクを抱える当事者になってしまう

特に、発覚のきっかけが退職者からの申告である場合、対応が後手に回りやすく、会社側の説明責任が厳しく問われることになります。

サービス残業の見落としを防ぐためにできること

  • 勤怠データだけでなく、PCのログイン・ログオフ時間など客観的なデータと突き合わせて確認する
  • 「残業を申請しないこと」が評価されるような空気がないか、定期的に確認する
  • 管理職向けに、部下の業務量と労働時間の実態を確認する方法についての研修を行う
  • チームの業務量が増えている場合は、人員配置や業務分担を見直すきっかけとして扱う

いずれも特別なシステム投資を必要とせず、既存のデータの使い方や確認の習慣を見直すことで対応できます。

従業員・人事それぞれができること

従業員側から考えられるアクション

  • 部下は、業務に関連する作業を「個人的な勉強」として未申請にせず、実態どおりに残業を申請する
  • 管理職は、部下の「大丈夫です」という回答だけで判断せず、勤怠データと業務量を定期的に突き合わせる

人事側から考えられること

  • 勤怠データだけでなく、PCのログイン・ログオフ時間など客観的なデータと突き合わせて確認する
  • チームの業務量が増えている場合、人員配置や業務分担を見直すきっかけとして扱う

さいごに

「サービス残業はない」という管理職の自信は、多くの場合、実態の確認不足の裏返しです。申請の有無だけに頼らず、客観的なデータや部下の業務量を定期的に確認する仕組みを持つことが、会社にとって見えないリスクを未然に防ぐための土台になります。

次回は、360度評価を導入したら社内の人間関係が悪化した会社の失敗について整理する予定です。


この記事は実務上の一般的な傾向や論点を整理したものであり、個別の法的判断ではありません。具体的な対応については社会保険労務士・弁護士等の専門家にご確認ください。

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